大気メタンの観測

大気メタン濃度の観測には、水素炎イオン化検出器（Frame Ionization Detector: FID）を搭載したガスクロマトグラフを用いています。各観測地点で現在使用している分析計は、㈱ラウンドサイエンス製のRCG-1です（図1参照）。この装置の安定性は繰り返し6回測定の標準偏差で2ppb以下で、再現性は上記の安定性の試験を2度行った際の差が±2ppb以下となっています。

各観測地点では、地上高約20mの取入口（二酸化炭素及び一酸化炭素と共用）から採取した大気試料を、毎分250mLの流量を保ちながら分析部へ導入しています。分析部では分析計の波形出力を10分ごとに解析して、濃度に対応する出力値を求めています。大気試料のメタン濃度を測定する合間に、8時間に1回の割合で、濃度の異なる4本の観測用標準ガスの濃度をそれぞれ1回ずつ測定するサイクルを繰り返します。

これらの分析計の出力値をもとに、各観測地点での濃度を算出します。空気ベースで作成された4本の観測用標準ガスは、気象庁本庁にあるメタン濃度較正装置によりあらかじめ濃度が正確に決められています（ 「メタン観測に関する較正」 参照）。これらの既知濃度とそれに対応した出力値から求めた2次式の検量線を観測サイクルごとに決定し、この検量線を用いて大気試料の出力値を濃度に換算します。分析計の応答が時間変化することによる誤差を最小にするため、1つの大気試料出力値について観測時刻前後の各検量線から求めた2つの濃度値を時間内挿して、10分ごとの濃度値を得ています。
さらに、観測用標準ガスの時間経過とともにみられるボンベ内でのガス濃度の変化（以下、これを濃度ドリフトと表します）をその使用前後に気象庁本庁で実施する較正によって確認し、濃度ドリフトが検出された場合にはドリフト量に応じて補正を行い、最終的な濃度値を決定します。
このようにして求めた気象庁の各観測地点におけるメタン濃度値は、気象庁のメタン標準ガスが世界気象機関（WMO）標準にトレーサブルであるため、WMO標準にトレーサブルな各国の観測地点の濃度値と直接比較することができます。
ガスクロマトグラフ分析では分析するガスの消費量が少ないため、メタンの観測用標準ガスは充填から数年間の使用が可能ですが、観測値を確定させるために年1回は気象庁本庁に移動させ較正を実施しています。

時別値、日別値及び月別値を求めるためのバックグランドデータの選別及び統計値の算出については、二酸化炭素と同様な手順で実施しています（ 「大気二酸化炭素の観測」 参照）。
メタンにおけるデータ選別のしきい値は表1のとおりです。