異常気象リスクマップ

確率降水量の推定方法

*以下は、日降水量の確率降水量を例に解説していますが、24時間降水量についても同様の方法で推定しています。

確率降水量・再現期間は、観測値をもとに、確率分布を当てはめて推定しています。 また、確率分布は、5種類の中から、観測値と良く合っていて、計算結果が安定しているものを、地点ごとに選択しています。

1.観測値を使った計算のイメージ

 図1は、ある地点の100年分の年最大日降水量のヒストグラム(イメージ)です。 例えば、150mm以上の雨は何年に1回起きたかを考えてみます。図1から、150mm以上となった回数は25回で、これが100年の間で起きたので、100÷25=4で4年に1回の頻度で降ったことがわかります。これは、
[全面積]/[全面積-150mm未満の面積]…(1)
という計算をしています。
 次に、図1のヒストグラムの各階級の数を下から積算した図2の「○mm未満の回数」グラフで考えます。ここで再度150mm以上の雨が何年に1回起きたかを考えると、式(1)より
[A]÷[A-B]…(2)
で求めることができます。

年最大日降水量のヒストグラムイメージ図 年最大日降水量の○ミリ未満の回数イメージ図

2.確率分布を当てはめる

 実際には、図1のように、ある範囲の降水がたまたま観測されなかったり、逆に200年に1回並の大雨が100年のうちに観測されたりすることもあります。
 そこで、図3の曲線のように、観測値の不自然な偏りを補正するような分布関数を当てはめてみます。全面積が1となるように規格化した分布関数をf(x)とすると、その面積は確率を意味します。
 ヒストグラムを下から積算した図2に対応するのが、f(x)を積分したF(x)です(図4)。日降水量xmmの再現期間T(xmmが何年に1回降ると推定されるか)は、式(2)より
T =1/(1-F(x))
で求められます。また、T年の確率降水量x(T年に1回の降水量は何mmと推定されるか)も、この式から逆算して求めることができます。 こうして、確率分布を当てはめることにより、図5のように、任意の確率降水量と再現期間を計算することができます。

年最大日降水量の確率分布イメージ図 年最大日降水量の非超過確率イメージ図 確率降水量と再現期間イメージ図

3.使用している5種類の確率分布

 今回使用したのは、次の5種類の確率分布です。

  • (1) グンベル分布
  • (2) 一般化極値(GEV)分布
  • (3) 平方根指数型最大値分布
  • (4) 対数ピアソンⅢ型分布
  • (5) 対数正規分布

 (1)~(3)の3つは、極値理論(最大値や最小値に対する統計学的な理論)に基づく極値分布と呼ばれる分布です。残りの(4)と(5)は、極値分布とよく一致するため、従来から用いられている分布です。各年の最大値である「年最大日降水量」の観測値に、これらの分布を当てはめ、5種類の中から最適な分布を採用しました。

4.観測値と合っているかどうか

 観測値と合っているか(適合度)を見積もるため、SLSCという指標を用いています。
SLSCは、「観測値をプロッティングポジション公式で並べた場合」と、「確率分布から推定した場合」との確率降水量の差を指標化したものです。小さいほど適合度が良く、ここでは0.04以下で適合していると判断しています。
 プロッティングポジション公式とは、経験的に求められた公式で、観測値の個数・順位と再現期間との関係を数式化したものです。いくつかの式が提唱されていますが、ここでは、多くの分布系によく適合するカナンプロットを使います。

カナンプロットのプロッティングポジション公式:
N個の観測値がある時、大きい方からi番目のデータの再現期間T ( i )を次のように仮定します。
   T ( i )=(N+0.2)/( i-0.4)

 例えば、年最大日降水量の観測値が100個あり、1番大きな値がX1mm、2番目がX2mmならば、X1mmの再現期間T(1)は167年、X2mmの再現期間T(2)は63年…と順に決まっていきます。

SLSCイメージ図

5.計算結果が安定しているかどうか

 現在までの観測値をランダムにピックアップしたり、今後観測値が追加されたりしても、結果が大きく変わらないことも、実用上、重要な条件となります。
この安定性を判断するために、ジャックナイフ法で評価を行っています。これは、N個のデータから、1つ目のデータを抜いたデータセット、2つ目のデータを抜いたデータセット…と、1個ずつのデータを抜いたN-1個のデータセットをN通り準備し、それぞれのデータセットから計算される確率降水量のばらつき(変動幅)を見る方法です。ばらつきの小さい方が安定しています。
 極端に大きな観測値を抜いた時、確率降水量は大きく下がります。(図7は名古屋の確率降水量の計算において2000年の豪雨を抜いた例)

名古屋の年最大降水量と、その年のデータを除いて計算された確率降水量

6.確率分布選択のフローチャート

 確率分布の選択は、平成11年に河川技術者、学識経験者等によって策定された「中小河川計画の手引き(案)」を基本としています。
 まず、極値分布の3種類の分布で、SLSCが0.04以下となる分布があれば、その中でジャックナイフ推定誤差の最も小さな分布を採用します。3種類の分布のSLSCが全て0.04より大きい場合は、残りの2種類の分布のうち、SLSCが0.04以下で小さい方を採用します。なお、5種類の確率分布形のSLSCが全て0.04より大きい場合は、最もSLSC値が小さいものを求め、適合度が基準を満たしていないことに留意した上で掲載することとします。

確率分布選択のフローチャート

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